投資信託はリスクが低いってホント?投資の失敗を防ぐリスクの基本とは。

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こんにちは。林FP事務所の林です。

最近、税制改正大綱で「次のNISA」の話題が大きく取り上げられました。

その際、マスコミは「リスクの低い投資信託等」という文言をハンを押したように使っていたせいで、「投資信託=低リスク」という認識が広がっているのではないか?という懸念が出ているようです。

投資信託を知らない人にとっては、繰り返しそのように言われるとなんだかホントのように感じるかもしれませんが、実際にはどうでしょう。

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投資信託はリスクが低いってホント?

では本当に、投資信託=低リスクなんでしょうか。

【答え】投資信託にはリスクの低いものも高いものもあります

結論からいえば、投資信託にはリスクの低いものもあれば、高いものもあります。ですので、もしあなたが「投資信託=低リスク」と認識しているなら、その認識は改める必要があります。

投資信託とは簡単にいえば「投資の入れ物」です。

株式がたくさん入っている場合もあれば、債権の場合もあるし、その両方かもしれません。また、インデックス投資信託のように市場全体の銘柄に連動するものもあれば、数十銘柄程度に投資する投資信託もあります。

為替リスクを相殺している投資信託があると思えば、デリバティブを利用して数倍のレバレッジをかけている投資信託もあります。

それぞれに特徴があり、リスクもバラバラなのです。

この記事では各個の投資信託のリスクについては触れず、そもそも投資におけるリスクとは何か?という点について理解を深めていきたいと思います。

余計な失敗をしないために「リスク」を正しく理解しよう

投資にはリスクがつきものとよく言われますが、それは半分正解、半分間違いです。

リスクを取らなければリターンが無いというのはある意味事実ですが、一方でリターンの期待できない「無駄なリスク」というものも存在しているのです。

「え?無駄なリスクなんて取りたくない!」

というのが、大方の投資家の本音でしょう。では無駄なリスクとはなんなのでしょうか。

以下では、リスクを基本的な4つの視点に分解して、それぞれの視点で考えてみましょう。

価格変動リスク

あなたが何かに投資するとき、最も最初に意識するリスクはこの「価格変動リスク」だと思います。例えば個別の株式投資を行うにせよ、投資信託に資金を投入するにせよ、過去の株価や基準価格をチェックしない人はいませんよね。

リスクとはそれが変動する幅や、予測不可能な事態のことですが、将来の価格もまた、正確に予測することは困難ですので、これを価格変動リスクといいます。

現代の理論では、価格変動リスクを2つの要素に分けて考えるのが主流です。

一つは市場全体の価格変動リスクで、システマティック・リスクともいいます。専門用語を覚える必要はありませんが、どの個別銘柄も、この市場全体の価格変動の影響を大なり小なり受けている、と考えてもらえればOKです。

もう一つは銘柄固有の価格変動リスクで、非システマティック・リスクといいます。これは銘柄固有の価格変動リスク全体から、市場全体の価格変動リスク(=システマティック・リスク)を除いたものと考えるとわかりやすいです。

ここで重要なポイントは、2番目の銘柄固有の価格変動リスク(非システマティック・リスク)は銘柄分散によって低減させることができる点です。

(ウォール街のランダム・ウォーカー原著第11版より筆者作成)

これは分散投資で得られる重要な恩恵の一つです。

図で示すように、銘柄数が増えるにしたがい、銘柄固有の価格変動リスクも低減していくことがわかります。

これは次に説明する信用(事業)リスクにも関係してきますが、銘柄固有の余計なリスクを避けることができるのは長期投資を成功に導く上でかなり重要なポイントです。

よく、「リターンを得るためにはリスクを取らなければならない」といわれます。

その意味でいえば、あえて銘柄固有の価格変動リスクを取ることで高いリターンを得ることも、一見できるように見えます。

しかし銘柄固有の価格変動リスクは上記の通り銘柄分散で容易に取り除くことができるため、敢えてそのリスクを負うことによってその分リターンが増えると考える合理的な理由がありません。

例えば、1銘柄でリスクが100の投資と、50銘柄でリスクが100の投資があるとすれば、後者の方が後述の信用リスクを減らせるので合理的です。となれば、前者の1銘柄に買いが集まる理由がなくなり、銘柄固有価格リスクに投資をする理由が無くなるでしょう。

価格変動リスクについてはもう一つ重要な指摘があります。

それはベータという、ざっくりいうと市場全体の価格変動にどれだけ「追従するか」の指標です。ベータが高ければそれだけ価格変動リスクも大きいと考えてください。

ベータが1を超える銘柄では、市場全体の変動よりも「大きく」変動することになります。ベータについてここで詳しく突っ込むことは避けますが、概ね上記のような理解をしておけばOKです。

もし上記の銘柄分散を、ベータが1より高い銘柄群で構成すれば、個別銘柄の価格変動リスクを避けながら、かつリスクの高い投資、すなわちリターンの高い投資ができるのでしょうか。

それができれば、銘柄固有のリスクを避けながら高いリターンを得るという、比較的おいしい投資ということがいえます。

しかし、過去のデータ分析によればそのような事実は確認されていないようです。

1992年に出版された研究論文でユージン・ファーマとケネス・フレンチは、ニューヨーク、アメリカン、ナスダックの全上場株式を1963年から90年までの期間にわたるベータによって、10分位に分類した(中略)基本的にこれらのグループ別ポートフォリオのリターンとベータの間には何の関係もなかったのだ。

バートン・マルキール著、ウォール街のランダム・ウォーカー原著第11版、P277-278より引用

ベータの高い(価格変動リスクが大きい)銘柄群に投資したとしても、そのリターンが増えなかったというのは驚きの事実ではないでしょうか。

結局この分析結果は、「一般に」市場平均以上のリターンを求めるのは難しいということを示唆しているのかもしれません。

ということを踏まえてみれば、簡単に銘柄分散できる投資信託というツールが、あなたの資産形成に役立つことが大いに期待できますね

なお、上記は統計的、一般的な話であって、個別銘柄の将来を見抜くことができるようなウォーレン・バフェット級の特殊能力をお持ちの方であれば、個別銘柄で大きく儲けることも不可能ではないでしょう。

統計的な話と、個別具体的な話は別、と考えておいてください。

さて、価格変動リスクの話が長くなってしまいましたが、様々な情報が価格に織り込まれるという市場の性質から、価格変動リスクが最も重要な要素の一つだと考えてください。

以下は、価格変動リスク以外のリスクについてお話しますが、価格変動リスクに含まれている面もあるので、そういう意識でみてください。

信用(事業)リスク、流動性リスク

信用(事業)リスクや、流動性リスクというのは、極端な例で言えば、個別の銘柄(事業)が事業破綻して上場廃止するような場合のリスクを指します。

広い意味でいえば、上場廃止のような際には価格が暴落しますので、これも価格変動リスクの一種と言えます。ただ、突然の発表のような場合には事前に価格に織り込む事が難しく、価格変動リスクとは別に意識しておく方がいいです。

流動性リスクとは市場が売り手または買い手のどちらか一方のみばかりになって取引が(なかなか)成立しない場合や、そもそも売買が少ない場合を指します。取引したいときにすぐにできないリスク、と言ってもいいでしょう。

突然上場廃止の可能性が浮上したような銘柄では、売り一方となって買い手がつかず、長期間、値段すらつかないことがよくあります。値がつく頃には、株価が何分の1になるなど、暴落しているわけです。

信用リスクは格付会社の発表や、有価証券報告書(事業報告書)などを頼りに判断することになります。

が、価格変動リスクのところでお話したとおり、銘柄分散することによってあなたのポートフォリオの信用リスクを低減させることができます。銘柄分散は投資信託を適切に選択することで簡単に達成できます。

カントリーリスク、地域リスク、為替リスク

これも広い意味では価格リスクに含まれている部分があります。

カントリー(国)リスクや地域リスクは、その国の国力や政治、地域紛争などの投資先への影響を指します。

例えば近年、中国と米国が貿易戦争をしていますが、これなどがカントリーリスクの典型ですね。中国や米国が貿易戦争から不利益を被れば、その分その国の株式市場も下落を強いられることになります。

為替リスクもカントリーリスクと関連がありますが、これは主に為替レートの変動リスクを指し、これは価格リスクに含まれています。「為替ヘッジ」をしている投資信託等では、為替リスクを含まず、価格変動リスクのみとなります。

広い意味では、為替取引の停止リスクや恣意的な為替レート操作なども為替リスクに含みます。

よく誤解されがちなのですが、投資信託が円建てになっているからといって、通貨分散されているかどうかとは関係がありません。投資の際の通貨は分散した上で、投資信託を円建てで売買するという設定は普通によくあるからです。

投資信託の中身がどうなっているかは、投資信託の目論見書(概要書)を読めば分かります。

ちなみに当たり前ですが、日本という国にもリスクがあります。日本人だから日本円で持っておけばリスクがない、というのは間違い。日本人にとって日本円もカントリーリスクをしっかり受けています。

例えば日本の経済力や信用が落ちて円が下落した場合、海外からの輸入コストが増大し、生活に大きな影響が出ますね。

このようなカントリーリスクや為替リスクを低減するためにも、投資地域の分散や投資通貨の分散が有効です

投資家リスク

最後に聞き慣れない「投資家リスク」についても指摘しておきたいと思います。

投資家リスクとは、投資家、つまりあなたが将来判断を誤ったり、判断を現状から変更したりすることを指します

例えば長期投資は、長期間同じポリシーで継続することを前提に議論します。毎月一定額を積み立てたらどうなるか、資産配分をある状態に「決めて」それを10年、20年続けたらどうなるかを考えます。

しかし、10年、20年続ける中で、あなたのポリシーが変わらないとは限りません。極端な話、最初はインデックス投資で始めたけど途中からゴリゴリのアクティブ運用に切り替える可能性だってあります。

そのような場合、ポートフォリオは「投資家(あなた)の判断やポリシー変更リスク」を受けていると言えます。

判断やポリシー変更が一概にダメといっているのではありません。

例えば収入が増えたり減ったりしたら、ライフプランの状況に応じて柔軟に積立額も増減させるのは決して間違いではないでしょう。かたくなに積立額を硬直化してしまうと、家計を逼迫する可能性もありますので、本末転倒です。

ただ、あなたのポートフォリオは投資家(=あなた自身)のリスクを受けているので、そのことを十分に意識しておく必要がある、ということです。

投資ポリシーの変更は、場合によって価格変動リスクなどとは比べ物にならないぐらい大きなリスクとなります。

あなたの資産をそうした大きなリスクにさらさないためにも、投資家、つまりあなた自身がしっかりと継続的に勉強していく必要があるでしょう

投資信託はホントに低リスクなの?まとめ

投資信託は投資の「入れ物」という話をしました。入れ物ですので、中身や運用方針によってリスクが様々だということをまずはご理解頂けたかと思います。

投資において、リスクを理解することがとても重要です。そこでこの記事では

  • 価格変動リスク
  • 信用(事業)リスク、流動性リスク
  • カントリーリスク、為替リスク
  • 投資家リスク

の4つの視点からリスクを眺め、リスクに不慣れな初心者が理解するための最初のガイドとしてみました。

もちろんこれだけでリスクの全てを理解するのはできませんし、投資にはリスク以外にも注意すべき点があります。

しかし、投資というのはあなたの貴重な財産を他人に預ける行為ですから、まずはリスクを理解しなければそれは「無謀な行為」になってしまいます。

時間がかかってもいいですので、ぜひ、リスクについて少しでも理解を深めてくださいね。

この記事が少しでも投資リスクの理解に役立てば幸いです。

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この記事を書いた人

林 健太郎

林 健太郎

林FP事務所代表。1972年生まれ。大手メーカーに15年間勤務後、2014年に独立。「お金」という、会社員時代とは全く違う分野でコネも実績もゼロから始める。自身の投資哲学を発信するブログとメルマガが好評を博し、保険を販売せずに100世帯以上のライフプラン相談、投資相談を受ける。博士(工学・大阪大学)、ファイナンシャルプランナー(CFP®)。