※本記事は、フリーランス・個人事業主の「お金の悩み」解決メディア「Moneyger(マネージャー)」による寄稿記事です。
起業するときの設備資金や、運転資金の調達で真っ先に思いつくのが銀行融資です。しかし、これから起業する人であれば過去の実績がなく、そのため信用も乏しいため創業時の融資審査は非常に厳しくなってしまうのが実情。
そこで、これから事業を始める人であれば、民間金融機関の融資だけでなく、国や自治体が設けている創業融資の利用も視野に入れることをおすすめします。
この記事では創業融資の種類や、審査に通りやすくするためのコツについてみていきましょう。
創業融資とは
国や自治体が設けている創業融資は、これから起業する人、起業して間もない人が申し込める公的融資です。新しい産業の誕生や新たな雇用の創出を促す観点からも、民間金融機関の融資と比較して門戸が広く、経営者にとって好条件で融資を受けることが可能です。
まさに起業家を応援するための融資制度と言えるでしょう。自分にぴったりな制度はどれなのか選択するためにも、それぞれの制度の概要について理解していきましょう。
創業融資の種類
創業融資は、
- 日本政策金融公庫(国)が行う融資
- 地方自治体が行う融資
の2種類に大きく分けることができます。
経営者にとってどの融資制度を選択すればよいか、非常に悩ましいところではありますが、創業時の資金調達はその後の経営状況にも大きく影響を及ぼしますので、事前の下調べが大切です。
次に創業融資としてメジャーな4つの制度について、特徴や要件、メリットデメリットを紹介します。
新創業融資制度(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫が行う新創業融資制度は、新たに事業を始める方または事業を始めて間もない方が申し込める創業融資です。無担保、無保証で借り入れできる、申し込みから融資実行までがスピーディーであることが大きな特徴です。
新創業融資制度の商品概要や要件などは以下の通り。
利用要件(①~③すべての要件に該当すること) | ① 創業の要件新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方。 |
② 雇用創出等の要件「雇用の創出を伴う事業を始める」、「現在お勤めの企業と同じ業種を始める方」、「技術やサービス等に工夫を加え多彩なニーズに対応する事業を始める」などの一定の要件に該当する方。 | |
③ 自己資金要件創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方。 ただし「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」などの要件に該当する場合は本要件を満たすものとされる。 | |
資金使途 | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金。 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | 各種融資制度で定める返済期間内 |
年率(年) | 1%~3%程度 使いみち、返済期間、担保の有無によって異なる |
担保・保証人 | 原則、担保・保証人は不要の融資制度であるため、代表者個人には責任が及ばないものとなっている。 法人の場合は代表者が連帯保証人になることも可能。その場合は利率が0.1%低減される。 |
中小企業経営力強化資金(同上)
日本政策金融公庫が行う中小企業経営力強化資金は、「認定経営革新等支援機関」のサポートを受けながら新規事業分野の開拓などを行う方向けの融資制度です。
無担保、無保証であることや、新創業融資制度よりも融資限度額が高く、金利が低いことが特徴です。
中小企業経営力強化資金の商品概要や要件は以下の通りです。
利用要件①または②に該当する方 | ① 次のすべてに該当する方 (1) 経営革新または異分野の中小企業と連携した新事業分野の開拓等により市場の創出・開拓(新規開業を行う場合を含む)を行おうとする方 (2) 自ら事業計画の策定を行い、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方 |
②次のすべてに該当する方 (1)「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している方または適用する予定である方 (2)事業計画書を策定する方 | |
資金使途 | 利用要件に該当する方が事業計画の実施のために必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円)※無担保・無保証の場合は2,000万円 |
返済期間 | 〇設備資金20年以内(うち据え置き期間2年以内) 〇運転資金7年以内(うち据え置き期間2年以内) |
年利(年) | 基準金利 使いみち、返済期間、担保の有無などによって異なる |
担保・保証人 | 要相談 |
融資条件 | 利用要件に該当する方は「策定した事業計画期間内において、年1回以上、事業計画進捗状況を公庫に報告すること。」が条件となる。 上記の利用要件を満たさなくなったことが判明した場合、期限の利益を喪失することになり、繰上償還となる。 |
制度融資(都道府県)
制度融資は、地方自治体・信用保証協会・民間の金融機関が連携して行う、起業家向けの融資制度です。地方自治体が窓口となりますが、実際の融資実行は民間の金融機関が行います。
通常、民間の金融機関にとって新規事業への融資は難易度が高いものとなりますが、信用保証協会が保証人になること、地方自治体が保証料や預託金の補助を行うことで、金融機関の貸し倒れリスクが軽減され、融資を受けやすくなります。
制度融資は都道府県だけでなく市町村も実施しており、居住地や開業予定地域の自治体制度を利用することになります。
各自治体によって異なる内容の制度融資がありますので、金利、融資限度額、利用要件、融資までの期間、補助制度などをしっかりチェックしたうえで申し込みましょう。
商工会等の融資(市区町村)
各市区町村の商工会や商工会議所でも、融資の相談を受け付けています。商工会などが企業に対して直接融資をするわけではなく、日本政策金融公庫や民間金融機関への斡旋をしてくれます。
商工会・商工会議所は独自にさまざまな融資制度を実施していますが、最もメジャーなのは「マル経融資」です。マル経融資とは、商工会議所や商工会から経営指導を受けている小規模事業者が、経営改善のために必要となる資金を、無担保・無保証で利用することができる制度です。
マル経融資の概要や要件は以下の通りです。
資金使途 | 運転資金、設備投資 |
融資限度額 | 2,000万円 |
返済期間 | 〇運転資金7年以内(うち据え置き期間1年以内) 〇設備資金10年以内(うち据え置き期間2年以内) |
利率(年) | 特別利率F 1.21%(2020年10月1日現在) |
担保・保証人 | 担保・保証人は不要 利用にあたっては商工会議所会頭、商工会会長等の推薦が必要 |
おすすめの創業融資はどれ?
4つの創業融資について、どの制度がおすすめかというと、それぞれ経営者の意向や状況もあるため一概には言えませんが、しいて挙げるとすれば、はじめに紹介した新創業融資制度がオススメです。
新創業融資制度のメリットとして、以下の5つを挙げることができます。
- 民間の金融機関と比べ低金利で融資を受けられる
- 担保・保証人が不要
- 保証料が不要
- 申し込みから融資実行までが1か月程度とスピーディー
- 自己資金要件がゆるい
まず地方自治体が行う融資と比較してみましょう。新創業融資制度は地方自治体が行う融資に比べ若干金利は高めですが、融資実行までが早く、保証人が不要であるため保証料もかかりません。また制度融資や商工会等の融資よりも自己資金要件がゆるいため、少ない自己資金でも申し込みが可能です。
次に、同じ日本政策金融公庫が実施している「中小企業経営力強化資金」と比較してみます。新創業融資制度と比べ、中小企業経営力強化資金の方が金利や融資限度額の面で有利な条件となっています。
また自己資金要件がないため自己資金が少ない方でも申し込みが可能です。しかし、中小企業経営力強化資金の融資を受けるためには認定支援機関からの指導や定期的な事業計画進捗状況の報告など、一定の要件を満たすことが必要になります。
そのため、融資を受け続けるための要件が、新創業融資制度に比べて厳しいという点が大きなデメリットといえるでしょう。
今回はあえて新創業融資制がおすすめと紹介しましたが、もちろん他の融資制度にも新創業融資制にはないメリットがたくさんあります。
たとえば地方自治体が行う融資を受けることで民間金融機関とのつながりが持てる、中小企業経営力強化資金を利用することで、経営のサポートが受けられ経営力の強化が図れるといったことも考えられます。
商品の概要だけでなく広い視野を持って融資制度を選択することが何よりも大切です。
創業融資の申請方法・手順
日本政策金融公庫と各自治体の融資制度では申し込み窓口は異なりますが、融資までの流れとしてはだいたい同じです。今回は創業融資制度の申請方法や手順について紹介します。
1.書類の準備
まず書類の準備です。新創業融資に必要な書類は一般的に以下の通りです。
- 借入申込書
- 創業計画書
- 設備資金の申し込みの場合は見積書
- 履歴事項全部事項証明書または登記簿謄本(法人)
- 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保を希望する場合)
融資条件や業種によって必要書類は異なり、また上記以外にも別途書類を求められることもありますので注意しましょう。一部の書類はホームページからのダウンロードか日本政策金融公庫の各支店で受け取るようになります。
相談したいことがある、手続きの流れを知りたいといった場合は電話で予約してから窓口へ向かうようにしましょう。
なお申し込み窓口は本店所在地、創業予定地の近くの支店になります。ホームページから日本政策金融公庫の支店一覧が確認できますので自分の所轄支店をチェックしておきましょう。
2.融資の申請
申請は支店窓口に行くか、郵送で行います。書類の不備で時間がかかってしまうということがないように、郵送で申請する場合は電話や来店であらかじめ相談しておくことをおすすめします。また後日行われる面談は申請時に提出する「創業計画書」に基づいて進められます。
創業計画書の内容や質問に対する受け答えが審査に大きな影響を及ぼしますので、しっかり練って提出してください。
3.融資の面談
融資の申請を行うと数日以内に日本政策金融公庫から面談通知が送られてきます。先述した通り面談は主に「創業計画書」の内容に基づき行われます。
客観的で現実的な計画書であるか、経営者自身が創業計画書の中身を理解し、熱意を持って面談担当者に伝えられるかが大切です。
また、面談担当者に悪印象を与えないためにも約束の時間に遅れない、必要書類を忘れない、清潔感のある服装を身に着ける、丁寧な言葉で話すといった基本的なことも心がけてください。
ビジネスマナーは経営者にとって欠かせません。ここをおろそかにしないようにしましょう。
4.融資を受ける
面談から1週間程度で審査結果が通知されます。審査が通ればいよいよ融資の実行ですが、その前に借用証書などの必要書類が郵送されます。不備のないように記入し速やかに返送しましょう。
新創業融資制度は担保・保証人を必要としない融資ですので比較的スムーズに口座へ入金されます。
創業融資の審査に通すためのコツ(注意点)
地域経済の活性化や雇用の創出につなげるためにも民間金融機関に比べ日本政策金融公庫や各自治体は創業融資に積極的な姿勢を見せています。
しかし、どんな起業家に対しても簡単に融資するということは絶対にありません。過去の実績がない分、いかに創業計画書の内容がブラッシュアップできているか、経営者としての資質があるかをプロの目で判断されるのです。
また、一度審査に落ちてしまうと、以後通りにくくなるということも忘れないようにしてください。
資料作成は融資の専門家と一緒に行う
資料作成の中でも、特に「創業計画書」の内容が審査通過のカギを握っています。取り扱う商品やサービスの売りは何か、何にいくらお金が必要なのか、売上高や利益の計算に根拠があるのかなど、専門的な知識や計画の妥当性が必要になります。
また、はじめての経営で独りよがりではない「創業計画書」を作成できる人はなかなかいませんので、創業計画書などの資料作成は税理士などの専門家と一緒に行うのがおすすめです。費用はかかってしまいますが、創業融資を受けられる可能性がグッと高まります。
融資に通りやすい条件の確認と準備
創業計画書の内容以外にも融資に通りやすくするために、主に以下のことに注意してください。
- 自己資金の出所
- 個人信用情報に問題がないか
- 前職との関連性があるか
〇自己資金の出所
自己資金をいかに投入できるかも大切ですが、そのお金の出所も重要です。借入金や出所不明のお金は自己資金とは見なされません。
反対に起業のために長年コツコツ貯めてきたお金であれば、面談担当者へのアピール材料になり、それが信用へとつながります。
〇個人信用情報に問題がないか
過去にクレジットカード、カードローン、携帯料金などの支払いに延滞があれば当然ながらマイナスポイントなります。
もし個人信用情報に不安があるのであれば開示請求を行い、中身を確認しておくことをおすすめします。
〇前職との関連性がある
これから起業する職種が前職と関連しているかどうかも審査において重要です。
どれくらい事業経験があれば大丈夫なのかという具体的な年数はありませんが、その業界に関する幅広い知識を身に着けるためには半年や1年程度ではなかなか足りないでしょう。
理想としては最低3年以上の経験年数を積むことをおすすめします。
融資面談のデモンストレーション(準備)
融資面談前は必ずデモンストレーションを行いましょう。ただし創業計画書の内容を丸暗記すれば良いというわけではありません。創業計画書の内容だけでなく同業他社の動向も聞かれるかもしれませんし、ちょっと意地悪な質問もされるかもしれません。
自分自身の強みやこれまでの経験がどのように起業成功へとつながるのか、同業他社より優れている点などを的確に熱意をもって答えられるようにしましょう。
どんな質問をされても冷静に対応できるようにするためには、繰り返しの練習しかありません。
話し方やしぐさなど自分では気づいていないこともありますので、誰かに練習相手になってもらいましょう。
創業融資まとめ
創業融資は、民間金融機関の融資よりも借りやすく、担保・保証人が不要な制度もあります。しかし制度の要件に該当しても必ず借りられるわけではありません。融資審査に通るためには事前の準備が重要です。自分ひとりではなかなか難しいこともありますので、時にはプロの手も借りて、スムーズな開業を目指しましょう。
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